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胃カメラでもピロリ菌の有無がわかるんです

序:ピロリ菌は胃がんの最大の要因ですが・・・

もともと日本において、がんによる死亡原因の1位は長い間胃がんでした。
それがピロリ菌の発見とその除菌療法の発明により革命が起こりました。
いまや胃がんは克服できる病気になりつつあります。

そしてこれからは、ピロリ菌がいないけれど胃が痛い・つらい、といった方が増えてきます。
それに伴い、ピロリ菌がいないことをしっかりと診断できる能力も問われる時代になります。

今回はピロリ菌がいない人に見られる胃カメラでの特徴であるRACについて解説します。

 

ピロリ除菌の歴史と未来

2000年に胃かいよう、十二指腸かいように対し、ピロリ菌の除菌療法が保険で認められるようになりました。
これにより再発性の胃潰瘍・十二指腸潰瘍に苦しむ多くの患者さんが救われました。

また、2013年には潰瘍がなくてもピロリ菌による慢性胃炎(ヘリコバクター・ピロリ胃炎)が胃カメラ等で証明されれば、除菌治療が保険で行えるようになりました。

これらにより胃がんによる死亡者数が年々明らかに減っているのです。
近年の日本において20代の若年層ではピロリ菌保有率は10%未満と低く、世の中ではピロリ菌の除菌も進んでおり、今後日本人のピロリ菌保有率、感染率そして胃がんの発生率も年々減っていく時代です。
ですが、胃というのはピロリ菌がいなくても不調におちいるのです。

 

これからはピロリのいない胃粘膜の評価が大切になる

昨今カメラの性能向上により、胃カメラ検査においては胃粘膜の細部までわかるようになっています。
当院ではオリンパス社の経鼻用最経内視鏡(直径5.4mm)を用いていますが、

胃内の観察で「ピロリ菌がいるかいないか」約95%の確率でわかります

わざわざ胃カメラでなくても、ピロリ菌がいるかどうかは他の検査で行っておけばよいではないか、と思うかもしれません。

実際には、胃痛などがつらいので一刻も早く胃の中を見て調べてほしい、などの理由で胃カメラが先行し、「胃カメラでみてピロリ菌がいそうだから」ピロリ菌の検査を後でするケースもしばしばあるわけです。

ほかにも健診や他院の検査で「ピロリ菌の抗体が陽性」だから胃カメラをしたものの「見てみると今はピロリ菌がいなさそうだ」から「便中ピロリ抗原検査」で再確認をしたところ陰性で胃カメラの見立て通り今はピロリ菌がいない、という診断に至るケースもあります。

(ピロリ菌の検査方法はいくつもあり、詳しく知りたい方はこちらの記事も参考にしてください)

 

ピロリ菌がいない人に見られるRACとは

遅くなりましたがここからが本題です。
どうして胃カメラでピロリ菌のいる・いないがわかるのでしょうか?
胃カメラでピロリ菌が見えるのでしょうか?実はピロリ菌は顕微鏡でないと見えないので、胃カメラでは菌自体は見えません。

ですがピロリ菌のすみついている胃粘膜とピロリ菌がいない胃粘膜では、粘膜の見た目に大きな差があるので、そこから判断ができるのです。
今回はピロリ菌がいない人に見られて、ピロリ菌がいる人には見られない所見の一つについて説明します。

ピロリ菌がいない、もしくは除菌後数年経過して粘膜が正常に近い状態に回復していれば、

胃の粘膜表層で毛細血管がきれいに並んだ様子、毛穴(もしくはヒトデ状の模様)が並んでいるように見えるのです。
これをRAC(regular arrangement of collecting venules)といい、ピロリ菌がいない指標の一つとして知られています。

私は胃の中を観察する時に、この所見があるかどうかをまず探すほど重要視しています。

いっぽう、ピロリ菌が胃の中に長年住んでいて、慢性胃炎もしくは萎縮性胃炎を起こしている場合は粘膜が腫れ、むくみ、毛細血管も壊され毛穴様の模様RACははっきりと見えなくなります。

写真はピロリ菌のいないきれいな胃粘膜で、表層に毛穴のようなものがたくさん見え、これがRACです。(左は通常光、右はモード変更し血管などの様子がわかりやすくなっています)

ほかにも胃カメラの画像を見たいという方は当院のホームページにも写真を載せております。

 

ピロリ菌がいないことがわかると何の役に立つのか

当院では近年ピロリ菌がいないのに胃の不調がある、という人の方が圧倒的に多いです。
ピロリ菌がいないとわかっていれば、まず胃がんの確率が非常に低いということが言えます。

そしてピロリ菌がいない場合は胃酸の分泌がしっかりしている人が多く、逆流性食道炎の確率が上がり、まずは胃酸を抑えてみましょうということになります。

胃酸が関係していない不調、ストレスとの関係が深そうということであれば、機能性ディスペプシアの診断に至ることが多くなり、漢方や胃腸の動きを調節するお薬などその人に合ったお薬を探そうということになります。

昔なら「胃カメラをしないとわかりません」と言われていたことが、そうでなくなるのです。
もちろんお薬で良くならなければ胃カメラもするのですが、初めから「胃カメラを受けなさい」と言われなくて済むことは患者さんにとって心理的負担が少なくなるはずです。

 

さいごに

RAC以外にも胃底腺ポリープなど、ピロリ菌がいない人に見られる所見はありますが、RACが最も精度が高い所見と考えられています。

胃カメラで胃の中を見た時に、ピロリ菌のいない人や除菌後の人にはあって、ピロリ菌のいる人にはない所見はなにかを知り、きちんと診断できる能力が内視鏡医には求められます。

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